はじめに
こんにちは、閲覧ありがとうございます。
すずきです。
さてみなさん、ギリシア神話に登場する怪物といったら何が思い浮かびますか?
ぱっと思いつきそうなのはこの辺りではないでしょうか。
・スフィンクス
(エジプトに像があるアイツ)
・キマイラ
(いろんな動物がミックスされたヤツ)
・メドゥーサ(およびゴルゴン三姉妹)
(髪の毛が蛇で、目を見たら石化しちゃうヤツ
ふむふむ。これってどれも女性じゃないですか……。
と思ったところから今日の記事はスタートします。
この記事では、どうして怪物の性別は皆「女性」なんだろう? という素朴な疑問についてゆる~く考えていきたいと思います。
毎度のことながら明確な回答が出ていないので、ほんと、雑記です。
本当に女性ばかりなのか?
とはいえ、思いつくのだけ並べて、「ああ、女性ばかりですね」とやっても、仕方ありません。
今一度ギリシア神話に出てくる怪物たちを本を読んで出てくる限りで洗い出してみます。
まずは『神統記』から。
キマイラやスフィンクスが生まれるのはポルキュスとケト夫妻から続く、怪物の家系からです。
ここでは
- ゴルゴ三姉妹 ♀
- ペガサスとクリュサオル どちらも♂
- エキドナ ♀
- ゲリュオネウス ♂
- ヒュドラ ♀(女性形)
- ケルベロス ♂
- オルトス ♂
- キマイラ ♀
- スフィンクス ♀
- ネメアの獅子 ♂(男性形?)
らの怪物が登場します。
おわかりの通り、男性(及び固有名が男性形)も一定数いますね。半分半分くらい。
……はい。
思い違いでした、記事終わり! ではいられません。
どうして冒頭のような疑問を抱いたのかを考えていきたいところです。
とにかく『神統記』だけでなく、別の神話集からも怪物を探していきます。
怪物の線引き
ここで引っかかったのが、「何を以て怪物とみなすか」です。
例えば、先ほどのケト-ポルキュス一家の中にはペガソスがいました。
とりあえず素人イメージからして、ペガソスって「怪物」でしょうか?
なんか羽まで生えてて聖獣の印象があります。
反対に怪物というと、野蛮で凶暴で人々を食い殺すイメージですよね。
簡単に、「異形・奇形、即ち怪物」とはできなさそうです。
キュクロプス(一つ目巨人)やへカトンケイル(頭部×50、腕×100のヤツら。三兄弟)なんかも、人型から逸脱していますが、「怪物」ではなく、「なんかそういうヤツら」という扱いをしてしまいます。
うーん、怪物如何。
そうしてしばらく、最初に思いついた怪物たちを眺めていると、共通した要素が取り出せました。
それはどれも
異形かつ、地上(人間界)で人々を困らし、結果として英雄的人物に退治(対処)される=一回的な状況
存在であること。
特に三番目の英雄に対処される存在という印象は相当大きなものと思われます。
ということで勝手に、ここでのいわゆる怪物の定義をまとめてみます。
すずき的怪物の定義
- 異形・奇形
- 地上で、誰かを困らしている/害を与えている
- 英雄的人物に退治される(→存在が一回的)
英雄に倒される怪物
アポロドーロス『ギリシア神話』から列挙してみる
以上を元に、ギリシア神話の英雄譚から、英雄に倒される怪物をアポロドーロスから抽出してみます。
使用したのは岩波文庫の高津春繫先生訳。
英雄は、人々を困らしている大きな猪や牛なども殺めたり捕らえたりして対処していますが、これらは異形ではないのでとりあえずスルーします。
また一般に、「こいつは怪物だろ」と思われるヤツと先のケト-ポルキュス家系で言及されたヤツも一応併記します。
怪物たちの情報はアポロドーロスに依拠し、()内で記載箇所を提示します。特徴の記載が無いor少ない場合は大修館の『ラルース ギリシア・ローマ神話大事典』も参考にしています。
ハルピュイア
特徴:有翼。女性or雌鶏の頭部に鳥の身体と鉤爪の足。
被害者:ピーネウス(食事しようとしたら必ずハルピュイアに奪われるか臭気で汚される)
対処した人:ゼーテース・カライス兄弟(一,Ⅸ,21)
セイレーン
特徴:下半身が鳥の姿。魅惑の歌で聞いた相手を狂わせる。
被害者:船乗りたち
対処した人:オルフェウス(一,Ⅸ,25)/オデュッセウス(摘要,Ⅶ,19)
タロース
特徴:青銅でできた巨人。首から踵まで一つの血脈でできていて、その末端に釘がはめ込まれている。ミノス王に命じられクレタ島の番人をしている。
被害者:クレタ島に近づこうとした船及び船員
対処した人:メーデイア(一,Ⅸ,26)
エキドナ
特徴:上半身は美しい女精、下半身は斑の入った蛇。あらゆる怪物の母。
被害者:近くを通った人たち
対処した人?:アルゴス(二,Ⅰ,2)
アルゴス
特徴:全身に目がある。常にどれかの目が開いているので「パノプテス(すべてを見る者)とも。
被害者:別に人々を困らしてはいない
対処した人:ヘルメス神(二,Ⅰ,3)
キマイラ
特徴:山羊の胴体と蛇(竜)の下半身、ライオンの胴体が混ざっている。火を吹く。
被害者:リュキアーの人々
対処した人:ベレロポンテースwithペガソス
グライアイ
特徴:生まれた時から老女の三姉妹。一つの入れ歯と一つの眼球を共有して生活
被害者:別に誰も困らしてはいない
対処した人:なし。ペルセウスに眼球と入れ歯を奪われ情報を与える。
ゴルゴン三姉妹(の内のメデゥーサ)
特徴:竜の鱗で取り巻かれた頭部(蛇の髪の毛)。猪のような大きな歯。青銅の手。黄金の翼。目を見ると石化する。
被害者:彼女らの目を見た人たち
対処した人:ペルセウス(二,Ⅳ,2)
怪物
特徴:海の怪物。ポセイドンよりエティオピアへ送り込まれる。
被害者:エティオピアの人々とアンドロメダ王女
対処した人:ペルセウス(二,Ⅳ,3)
ネメアの獅子
特徴:奇形ではないが不死身。めちゃくちゃ強い獅子。
被害者:ネメアの人々(?)
対処した人:ヘラクレス(二,Ⅴ,1)
レルネーのヒュドラ
特徴:9か50か100、あるいはそれ以上の頭部を持つ水蛇。頭部は一つ切っても再生する。猛毒の息を吐く。
被害者:レルネーの人々
対処した人:ヘラクレス(二,Ⅴ,2)
怪物
特徴:海の怪物。アポローンとポセイドンがトロイアへ派遣した。高潮に乗り平野までやってくる。
被害者:トロイアの人々とヘーシオネー王女
対処した人:ヘラクレス(二,Ⅴ,9)
ゲリュオネースwithオルトス
特徴:三つの身体がお腹でくっついている。紅い牛を飼っていて、番犬オルトスと牛飼いエウリュティオンがお世話している。
被害者:別に誰も困らしてはいない(?)
対処した人:ヘラクレス(二,Ⅴ,10)
蛇(龍)
特徴:不死身。頭部が100ある。地の果てでただ黄金の林檎を見張っている。あらゆる種類の言葉を話す。
被害者:なし。(二,Ⅴ,11)
ケルベロス
特徴:冥王ハデスの犬。3つの頭を持つ。尻尾が竜。背中にはあらゆる種類の蛇の頭が生えている。
被害者:なし? 冥界へやってきた者たちを怖がらせてはいるけど、別に誰も困らせてはいないと思われる。
対処した人:ヘラクレス(と少しお散歩し冥界へ戻される) (二,Ⅴ,12)
アレースの泉の竜
特徴:アレスの泉の番人をしている水蛇。
被害者:水を汲みに派遣されたカドモスの部下たち
対処した人:カドモス(殺害ののち、蛇の歯を撒いたらスパルタ人が生まれた)(三,Ⅳ,1)
スフィンクス
特徴:女性の顔とライオンの胴体と尾を持つ。有翼。謎を出す。
被害者:テーバイの人々、謎を解こうとした人
対処した人:オイディプス(三,Ⅴ,8)
ミノタウロス
特徴:半人半牛。クレタ島の迷宮に住む。
被害者:アテナイから供犠させられる少年少女たち
対処した人:テセウス(摘要,Ⅰ,9)
ケンタウロス族
特徴:半人半馬。野蛮。
被害者:テッサリアの人々など
対処した人:ラピタイ族ら(摘要,Ⅰ,21)
ポリュペーモス
特徴:一つ目巨人の一人。獰猛で野蛮、人食い。
被害者:オデュッセウスの仲間たち
対処した人:オデュッセウス(摘要,Ⅶ,4)
スキュラ
特徴:女の顔と胸。脇腹から犬の頭が6つと犬の足12本が生える。同名のスキュラ岩礁に住む。
被害者:オデュッセウスの仲間たち
対処した人:オデュッセウス(摘要,Ⅶ,20)
カリュブディス
特徴:一日に三度、海峡の水を吸い込んで吐き出す。同名のカリュブディス岩礁に住む。
被害者:オデュッセウスの航海を妨害
対処した人:オデュッセウスがなんとか座礁を回避(摘要,Ⅶ,21)
基本的に異形たちは、英雄の邪魔をするから退治されたり、英雄の武勲を示すのに使用されていますね。
彼ら自身がメインキャラクターとして主役を張ることはありません。
怪物=水、蛇、竜?
そして一定数いるのが、ただ「怪物」とされているもの。
一国の王/王妃が傲慢な態度をとる
↓
神々が怒り、国へ怪物を派遣
↓
アンドロメダやヘーシオネーなどの王女が生け贄として供される
↓
英雄が怪物を倒し、王女などの報酬をもらい受ける
という一連の流れになっています。
このただの「怪物」とされているやつらは、だいたい海の怪物になっているように思えます。
イメージとしてはリヴァイアサンみたいな感じでしょうか?
そしてレルネーのヒュドラ(水蛇)、アレースの泉にいる竜もこれらと質を同じにしています。
私たちの記憶に残る怪物の特徴
つまり一般的に怪物というと、蛇や竜の姿で水の性質を持っていると大まかにまとめてしまうことができそうです。
そしてそこからあぶれるような、特徴的な怪物が固有名詞として我々の記憶に残るのではないでしょうか?
先述の列挙から蛇竜系を除くとこんな感じ。
- エキドナ
- セイレーン
- ハルピュイア
- タロース
- アルゴス
- キマイラ
- グライアイ
- ゴルゴーン
- ネメアの獅子
- ゲリュオネースwithオルトス
- ケルベロス
- スフィンクス
- ミノタウロス
- ケンタウロス族
- ポリュペーモス
- スキュラ
- カリュブディス
ここから、先述した「いわゆる怪物」の三条件に則り、もう少し削ってみます。
- エキドナ
- セイレーン
- ハルピュイア
タロース(青銅人だけど一応人型なので除外)アルゴス(人々を困らしていないので除外)- キマイラ
グライアイ(加害もしていないし退治もされていないので除外)- ゴルゴーン
ネメアの獅子(不死身だけど異形ではないので除外)ゲリュオネースwithオルトス(無害? なので除外)ケルベロス(いかにも怪物だが無害なので除外)- スフィンクス
- ミノタウロス
ケンタウロス族(ラピタイ族と戦い敗走するが、登場が一回的ではないので除外)- ポリュペーモス(除外審議中)
- スキュラ
- カリュブディス
ポリュペーモスは個人名で、彼自身は非常に野蛮な人食い男ですが、キュクロプス全体は善悪どちらでもないので、除外したいところです。
キュクロプスは怪物というより、もう「そういう異形の種族」のイメージ。
それに種族自体は一回的ではなく、ギリシア神話の物語によく登場します。はい、除外。
よし、だいぶ作為的だけど、最終的に残った怪物たちを見ましょう。
・エキドナ ♀
・セイレーン ♀
・ハルピュイア ♀
・キマイラ ♀
・ゴルゴーン ♀
・スフィンクス ♀
・ミノタウロス ♂
・スキュラ ♀
・カリュブディス ♀
ほら! 女子ばっかりだ!
やっぱり怪物は女性として描かれるんだ!
やったー!
……
方法論や怪物の定義が非常に作為的なため、胸を張れない。
やっぱり、無害とはいえケルベロスやゲリュオネスも入れた方が良いかな……。
おわりに:課題山積
そしてこれが事実だとして、なぜ女性が多いのかが謎のままですね……。
というかアポロドーロスだけ読んで列挙しきった気になってもね……。
課題は残るばかりですが、今回はこれで失礼します。
完璧を求めすぎると投稿できなくなっちゃいますからね。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
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