『イーリアス』第十巻をひとつひとつ読む:前編

『イーリアス』

 閲覧ありがとうございます。今回は『イーリアス』第十巻を読んでいきます。

 第十巻はざっくり言うと、追い詰められたギリシア軍が、夜中に敵のトロイア軍へこっそり偵察に行く話です。

 前回までのあらすじ
 トロイア軍に追い詰められたギリシア軍は、英雄アキレウスを呼び戻そうとするが拒絶され失敗する。ではどうしたらいいのか、総大将アガメムノーンは一人でそれを考えなくてはいけなかった。

真夜中の招集

アガメムノーン、不眠

 晩餐を終え、皆が明日からの戦いに備え眠りにつく中、総大将アガメムノーンは上手く眠れずにいました。

 それもそのはず。ギリシア軍は絶体絶命のところまで追い詰められており、すぐそこまでトロイア軍のかがり火が見えています。
 アキレウスさえ戻ってきてくれれば状況は変わったでしょうが、それすらも拒絶されてしまいました。

 総大将としてこの危機を脱さないといけません。どうしたらいいのか、震え上がってしまい眠るどころではないのです。

 そこで思いついたのは、まずネストールのもとを訪ね、ともに秘策を考えるよう頼むことでした。そのため、急いで起き上がると身支度・武装をして出ていきました。

メネラーオスと合流

 兄であるアガメムノーンがそんな状態の中、メネラーオスも同じ理由で眠れずにいました。

 居ても立っても居られなくなり、兄のもとを訪れようと、彼も身支度をして出かけていこうとしていたころでした。

 アガメムノーンとメネラーオスはばったり出会います。
 そしてこれからネストールだけでなく、他の大将たちも呼んで策を練るために、メネラーオスに大アイアースとイードメネウスを呼び出すように指示します。彼らの陣営は少し遠くにあるので、メネラーオスはそこまで出かけていくことになりました。

アガメムノーン、ネストールのもとへ

 アガメムノーン自身はネストールのもとへ向かいました。

 寝ていた老人の周りには立派な武器や防具が置かれています。
 ネストールは「自分はもう年老いており敵と激しく戦うことはできない」と謙遜していますが、今まで読んできた限りガッツリ戦線に出ているし、こうやってすぐに戦えるように武具もそろえてあります。パワフル老人です。

 ネストール暗闇の中でもアガメムノーンの気配に気づきます。アガメムノーンは名乗ったのち、

・上手く眠れず、ギリシア軍の大ピンチを何とかしようと夜中に陣地中を歩き回っていること。
・ネストールも一緒に、夜の見張りをする部隊のもとへ出かけようという提案。

 を伝えます。

 それをネストールは承諾し、加えて、ディオメーデース、オデュッセウス、小アイアース、メゲースらの大将たちも呼び集めることを提案します。

 さらには、こんな手間のかかる仕事をアガメムノーンばかりに任せているメネラーオスを非難。「まったくけしからん弟だ!」という具合にです。
 しかし、メネラーオスもちゃんと一足先にアイアースとイードメネウスのもとへ向かっていることをアガメムノーンから伝えられると納得します。

次々と集まる大将たち

 ここで少し状況を整理しましょう。

 ギリシア軍が船が停泊する自陣の周りにせっせと作った塀と堀。その一部が出入口としてになっています。
 トロイア軍はすぐそばに迫っているので、それに対処するため見張り部隊が門のところで待機しています。アガメムノーンは会議を門から出たところで開こうとしています。

 メネラーオスが呼びに行った大アイアースとイードメネウスは、みんなの陣営があるところよりも門に近い場所に陣屋を構えているので、メネラーオスは彼らを呼びつつ、先に門のもとでアガメムノーンたちが来るのを待っています。

 さてアガメムノーンとネストールはオデュッセウスとディオメーデースを呼び出します。

 ディオメーデースは甲冑を着込んだまますっかり眠りについていて、ネストールが声をかけて初めて彼は飛び起きました。
 あの尊敬されるネストール自身が自らの足で大将たちを呼び集めている姿にディオメーデースは感嘆します。

 ネストールの指示を受け、今度はディオメーデースが、小アイアースとメゲースを呼びに出かけていきました。

 そして門のもとへ皆が集まります。先に待機していたメネラーオスたちとも合流。
 見れば、見張り部隊も決してウトウトしたりせずに役目を果たしていました。その様子にネストールたちは大いに喜び励ましました。

会議が開かれる

 門のそばにいる見張り部隊の横をすり抜けて、大将たちだけでの会議が門の外で行われます。

 ちょうどその場所は、夜が来る直前にヘクトールがギリシア軍に迫ってきた地点でした。門からすぐそばのところです。

 ネストールの息子アンティロコスやメーリオネースも呼び出され、会議に参加しにきました。

トロイア軍偵察の提案

 真夜中、こんな露天のもとでネストールから提案されたこと。それは「トロイア軍の偵察」でした。

 ここからも見えるトロイア軍のかがり火の方へ向かって行き、端っこの手ごろなトロイア戦士を一人捕まえてきて、そいつにトロイア軍の動向などを聞き出すというなんとも大胆な作戦です。

 成功したならそりゃ光り輝く誉れを手に入れられます。とはいえ、敵の陣地に飛び込むという超危険なミッションに、会議参加者のみんなが静まり返りました。

ディオメーデースが名乗り出る

 しかしここで名乗りをあげるのがこの男! ディオメーデースです。

 なんという勇ましい人だろう!……ベタですが、もはや彼が『イーリアス』の最推しキャラです。(彼が死なないことを祈る)

 さすがのディオメーデースも一人で行くのはアレなので、もう一人付き添ってほしいと言います。

 すると今度は両アイアースやメーリオネース、メネラーオス、オデュッセウスらが次々と立候補します。
 ディオメーデースの勇気に感化されて、あるいは、ディオメーデースが一緒という安心を得てなのか、先ほどとは打って変わって、といった様子。

 アガメムノーンはディオメーデース自身に選ばせることにしました。
 その時に
「ちゃんと考えて適任を選ぶのだぞ。決してこっちの方が家柄が高貴だから~とかで決めるんじゃないぞ」
と付け加えます。
 アガメムノーンは弟メネラーオスが選ばれてほしくないからこう言ったのです。(笑)

もう一人はオデュッセウス

 結局ディオメーデースが選んだのは知恵に富んだオデュッセウスです。

 オデュッセウスはアテネ女神にも気に入られているし、優れた分別も持っているからとディオメーデースが選考理由を語ると、オデュッセウスは「もういいよ、みんなわかってるから」と得意げ。

 夜はすでに三分の二過ぎてしまっているとして、二人はしっかり武具を身に付けて早速出発します。

 二人のことを気にかけているアテナは、道案内をさせるためにゴイサギを遣わします。

枝にとまるゴイサギ(GOOPASS野鳥図鑑さんより)
枝にとまるゴイサギ(GOOPASS野鳥図鑑さんHPより拝借)

 GOOPASS野鳥図鑑さん(こちら。画像もここより拝借)によると、ゴイサギは夜のサギとも言われ、夜にクワックワッと鳴くのが特徴です。

 ディオメーデースたちは、姿こそ見えないものの、ゴイサギの声が聞こえたことでアテナが加護してくれていることを悟り、女神へ感謝と祈りを捧げました。

 二人は祈りを捧げたのち、未だ死体が転がる暗闇の平野を二人で進んでいきました。

前半まとめ:偵察部隊派遣!

 第十巻はハラハラドキドキの偵察部隊派遣の話です。とはいえ、オデュッセウスとディオメーデース、そしてアテナの加護という安心の布陣。

 第十巻後半では、トロイア側からドローンという男が出てきます。偵察がどうなるのか楽しみです。

 そういえばこの日はオデュッセウスが大活躍ですね。アキレウスのもとにも説得に行ったし、夜の間も敵軍の陣地に赴くことになりました。
 オデュッセウスは彼の知恵が主にフォーカスされるので、なんかクールでブレーンなキャラのイメージがありますが、こうやって骨折り仕事にも熱心に取り組む熱い漢です。

・アガメムノーンは、この窮地を脱するため、トロイア陣地へ偵察部隊を派遣することにした。
・偵察部隊はディオメーデースとオデュッセウスの二人。
・二人のミッションは、「敵軍の一人を捕まえ、トロイア軍の動向などを聞き出すこと」。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。

 途中のゴイサギの説明、および画像はGOOPASS野鳥図鑑さんより拝借、参照しております。
 ゴイサギの原語はἐρῳδιός(エローイディオス)、英語にするとheron=サギです。

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