閲覧ありがとうございます。すずきです。
ギリシア神話では神々に対して「やらかしちゃった人たち」がたくさん登場しますね。
その多くが、神々に対して無礼なことを行ったゆえに罰せられています。
特に、死すべき人間どもの分際で、神々と自分を比べ、肩を並べようとする態度はὕβρις(ヒュブリス)=傲慢といい、最も重い罪とされています。
こうしたやらかしに対し、神々は様々な罰を与えます。
今回の記事ではその罰をざっくりと大別し、例をいくらか選んでご紹介します。
こちら前編では、(比較的幸運なことに)地上で被ることになった罰を紹介し、冥府での罰は後編で取り扱いたいと思います。
前後編あわせてどうぞ。
この記事は
アポロドーロス著 高津春繫訳『ギリシア神話』、岩波文庫、1954
をベースに書かれています。
異伝が数多くあるギリシア神話ですので、他の本と見比べていただければと思います。またそれ以外に参考にした際は都度表記しております。
地上での罰
罰ですが、大きな分類として、殺されるか命は助かるかで二分できます。
殺される場合、冥府及び地獄行きですが、殺されない場合は地上で罰を被ることになります。
地上にて肉体的な苦しみを受ける
例:テイレシアース、ピーネウス
彼らはどちらも罰によって盲目にさせられています。
予言者ピーネウスの罪は異伝が多くあり、互いに矛盾し合っていることから断言はできません。
その予言故に盲目にさせられたという伝えがあったり、反対に罰と予言は無関係だったりと異伝が多いです。
テイレシアースの罪は、女神の沐浴を見てしまったことともされていますが、
あるいは
ひょんなことから性転換し男女どちらの身体も経験したことから、
ゼウスとへーラーに詰め寄られ、ゼウス(男側)に有利な証言をしたためにヘーラーに盲目にさせられたという話もあります。
その時同時にゼウスから予言の術をもらったとか。
ここも定かではありません。
(本題とはそれますが、予言者が並べて盲目なのは理由があるでしょうね)
ピーネウスはさらにハルピュイアという怪物を送り込まれ、奪われたり汚されたりしてろくに食事がとれなくなるという苦痛も味わっています。
特殊な例:プロメテウス
ゼウスを騙そうとしたり、神の火を盗んだりしたプロメテウス。
人間からすれば文化英雄ですが、神々からすればとんだ罪人です。
しかし、プロメテウスは巨神族のため不死ですので、地獄送りにできません。
また他の巨神族とも違い、ティタノマキア(ゼウスたちとクロノスたちの世代交代の王権争い)にも参加していないので、タルタロス(冥府)に幽閉もできていません。
プロメテウスはそのため地上のコーカサス山に磔になって、鷲に臓器を貪り食われています。(後に解放される)
精神を狂わされる
例:プロテアース
プロテアースは狩人でしたが、狩猟の女神アルテミスを尊敬しませんでした。
さらには「火も自分を傷つけることはできない」と公言し、言いふらしていました。
ゆえに精神を狂わされ、火の中に自ら飛び込んで自殺します。
例:リュクールゴス
彼はエードーノス人の王でした。
酒神ディオニュソスを神として認めずに、侮辱&追放した最初の人物でした。
ディオニュソスによって、リュクールゴスは狂気に陥ります。
狂気の最中、彼は斧で葡萄の木の枝を伐っていきます。
しかし、正気に返ってみると、視界にはばらばらになった少年の身体が。
なんと、木だと思っていたそれはそれは自分の息子だったのです。
ディオニュソス、恐ろしい子……!
ちなみにリュクールゴスはその後、神託に従ったエードーノス人にパンガイオン山に連れて行かれ、
馬にめちゃくちゃにされて(原文ママ)死にました。
高津先生のこの訳なんか笑っちゃう。
犠牲を捧げなくてはいけない
例:ラーオメドーン、ケーペウス
ラーオメドーンとケーペウスはそれぞれトロイアとエティオピアの国王でした。
ラーオメドーンは
ひょんなことからトロイアで従事していたアポローン神とポセイドン神に
相応の報酬を与えなかったので怒らせてしまいます。
ケーペウスの方はというと妻カッシオペイアが
「私は全てのニンフよりも美しい!」
と言い張り、ニンフたち及びポセイドンをおこらせてしまいます。
そうして国へ罰として怪物が派遣されます。
この怪物を沈めるためには、王女(アンドロメダ・ヘーシオネー)を犠牲として捧げなくてはならないと神託が告げられるのです。
例:アガメムノーン
また、少し様相は違いますが、ミュケナイの王アガメムノーンも傲慢な発言故に娘を犠牲に捧げることになりました。
狩猟にてアガメムノーンが鹿を射た時に
「アルテミスでもこうはいくまい」
と言っちゃうんですね。
そうすると、アガメムノーンを総大将としたトロイア遠征軍の船が、風が吹かなくて出航できなくなってしまいました。
娘のイーピネゲイアを供すれば状況を打開できるということで、
妻もろとも欺いてイーピネゲイアをアウリスの浜辺に呼び出して屠ります。
とはいえ、この場合、他の神や英雄が哀れんで犠牲に捧げられた娘たちを助けてくれる場合があります。
・アンドロメダはペルセースが助ける。
・ヘーシオネーはヘラクレスが助ける。
・イーピネゲイアはアルテミスが哀れんで助けてくれる。
変身させられる
例:ケーユクスとアルキュオネー夫妻
デウカリオン時代の洪水の後、テッサリア地方を掌握したアイオロス。
その娘アルキュオネーと、ヘオースポロスの子供ケーユクスは夫妻でした。
しかし、彼らは思い上がって、なぜか
夫のケーユクスは「俺の妻はヘーラーだ」と、
妻のアルキュオネーは「私の夫はゼウスよ」と言ってのけます。
おそらく比喩的に、「ゼウス/ヘーラーに匹敵するくらい素晴らしい!」というニュアンス。
あるいはあだ名でしょうか。ダーリン、ハニー的な。
ゼウスは怒って、
ケーユクスをカツオドリに、
アルキュオネーをカワセミに変身させます。
そのためギリシア語で、
カツオドリをkerx、カワセミをἀλκυών(アルキュオーン)と呼びます。
ケーユクスを希英辞典で見つけられませんでしたが。
オウィディウス『変身物語』では
当夫妻は傲慢でも何でも無い仲睦まじい夫妻として描かれ、
不幸な事故で引き裂かれた彼らを、神々が鳥に変えてあげた
という内容になっています。
罰としての変身であれ、賞としての変身であれ、勝手に変身したのであれ、
変身譚はだいたいが縁起譚となっています。
「このカツオドリっていう鳥はね、実は昔~」という感じで、今ある生物や物に対する説明の付与という感じですね。
一区切り:後編に続く!
ここまでは地上で受ける罰をご紹介しました。
精神を狂わされる以外は、なんだか救いようもあってまだマシですね。
盲目になっても予言者としてやっていけてるし、犠牲として捧げられても英雄に助けられていますし、変身しても命は助かって第二の生がスタートしています。
気になるところと言えば、
一発でアウト判定を受け狂わされる人と、犠牲を捧げればいいだけの人がいる無情です。
アガメムノーンとか何回か傲慢な発言をしていますし。
またリュクールゴスに関して、
神でないものを神とするのは涜神にあたるのだから、まだ神として知名度の低かったディオニュソスを受容するのに慎重になるのは仕方なかったのでは?
ということも思わざるを得ません。
もちろん侮辱するのはよくないですけど。
テイレシアースもそうですけど、神々に板挟みにされたら人間にはもう何もできませんね。
人間ごとき、それほどの存在なのです……。
さて後編では残念ながら命が助からなかった人たちを見ていきます。ぜひお付き合いください。
後編はこちらからどうぞ。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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