こんにちは、すずきです。今回は『イーリアス』第八巻の前半部を読んでいきます。
前回までのあらすじ
両軍とも、死者を埋葬するために休戦期間が設けられた。ギリシア軍はその間に、船が停泊している自陣を守るために、そこを囲うように巨大な塀と堀を築き上げた。
天上での取り決め
神々の間での約束
休戦期間が明け、戦いが再開する日の朝、天上のオリュンポスでは神々が集まって、最高神ゼウスの言葉に耳を傾けていました。
ゼウス
・もしこれからギリシア軍、トロイア軍問わず、どちらかについて、この戦争に介入した神は誰でも、叩かれ打ちのめされて面目を丸つぶれにされるだろう。
・あるいは地下のタルタロスへ突き落すか。
・自分は最高神であり、どの神々よりも優っている。(脅し)
ゼウスが、「神々による戦争への介入を今後一切禁止する」という旨を伝えたのです。神々はゼウスの恐ろしさにひっそりしました。
しばらくしてからアテナがこう言います。
アテナ
・ゼウス様の力が一番であることは皆承知しています。
・けれど、やっぱり倒されていくギリシア兵士たちが哀れです。
・言う通り戦争に直接介入はしませんが、謀(はかりごと)だけは手助けさせて下さい。
愛娘の言葉にゼウスは優しい言葉で承知しました。(ゼウスはアテナに激甘の印象です)
こうして神々は、このトロイア戦争において、自分が直接戦うのはNGだけど、兵士たちにアドバイスをしたり、心持ちを傾けさせたりするような介入はOKとなりました。
ゼウスの天秤
話し合いが終わったのち、ゼウスは黄金のたてがみの馬を駆って、イーダ山の頂へ赴くと腰を下ろしました。ここからは戦場や、トロイア市内、ギリシア軍の陣地までもが良く見えます。
ゼウスが覗いてみると、地上では、両軍がそれぞれの陣地で食事をし、鎧を着込み、今日から再開する戦争へ意気込んでいました。
そうして戦場で両軍は相まみえて、戦争がはじまります。戦場には人々のうめき声や叫び声が充満し、血がたくさん流れる恐ろしい戦いです。
太陽が昇っていくその間は激しい戦闘が繰り広げられました。
しかし太陽が真上に来る頃になると、ゼウスが黄金の天秤を取り出します。この天秤はキーアイテムで、その傾きが示したことは、人間の運命として決定的になります。
はかりの一方にギリシア軍の死、もう一方にトロイア軍の死を乗せて、はかると、天秤はググっとギリシア軍の方が大地の方へ下がり傾きました。
これはギリシア軍が負けることを示しています。
ゼウスはこれを見て、ギリシア軍の方へ雷を轟かせました。ギリシア兵士たちはゼウス大神の放った雷に恐れおののきます。
ネストールとディオメーデース
ネストール、ピンチ
ゼウスが雷を放ったので、ギリシア軍は戦線に踏みとどまれず後退していきます。あの両アイアースや、アガメムノーン、イードメネウスたちでさえ。
しかしネストールはそれができませんでした。トロイアの王子パリスが矢でネストールの馬を射たためです。
控えの馬に乗り移ろうとしますが、その時はすでに大将ヘクトールが迫ってきているのが見えます。
馬が死に、ヘクトールに目を付けられ、ネストールは絶体絶命!
ディオメーデースが助ける
その様子を鋭く見つけたディオメーデースが叫びました。近くにいたオデュッセウスにネストールへの助太刀を提案します。オデュッセウスはちょうど、他の戦士と同じように雷を恐れ、自陣に向かっている途中でした。
「オデュッセウス、何やってるんだ! 俺と一緒にネストールからヘクトールを引きはがそう!」
しかし聞こえなかったのか、オデュッセウスはそのまま行ってしまいます。ディオメーデースは一人でネストールのもとへ駆けつけました。
ディオメーデースはネストールを自分の馬車に乗せます。第五巻でディオメーデースは敵のアイネイアースから駿足の神馬であるトロースの馬を奪って来ていましたので安心です。
ちなみに、もともとネストールが引いていた馬も介添え役が連れ帰っていきます。
さて、駿馬に乗った二人はそのまま、逃げることもなく果敢にヘクトールに向かって行きます。
ディオメーデースがヘクトール目がけて投げつけた槍は、ヘクトールではなく彼に付き添っていたエーニオペウスに当たり、彼は死にました。
ヘクトールは嘆き悲しみます。
ゼウスの雷とディオメーデースの葛藤
ディオメーデースの勢いによって、また戦況が傾こうとしているのを、ゼウスが是正しました。
彼はディオメーデースたちが乗った戦車のすぐそばへ輝く稲妻を落としました。
そこから立ち上る炎に、駿馬といえども恐れ、ネストールは手綱を放してしまいます。
ネストール
・ディオメーデースよ、今はもう逃走しよう。
・今、ゼウスの庇護は我々ではなくヘクトールについている。
・これが神の意思ならば今日のところはそれに従おう。
しかし、古代ギリシアにおいて戦争から逃げることは、戦争で死ぬよりも恥で避けたいことでした。そのためディオメーデースは敵軍の大将を前にして戦わずに逃げることを拒否します。
「ネストールの言っていることは筋が通っていて納得できるが、それでも敵に背を向けて逃げるなどできない。逃げたと人々に言われるくらいなら死んだ方がマシだ」
とディオメーデースは胸を痛めます。
ネストールはそんなディオメーデースを、「大丈夫、君の戦果はもう十分相手に知られている」と優しく諭して、ディオメーデースはしぶしぶ彼の言葉に従いました。
後ろからヘクトールが逃げるディオメーデースを非難する声が聞こえます。ディオメーデースはやはり思いとどまりましたが、その度にゼウスがイーダ山から雷を打ち付けます。さすがの彼もゼウスの決定に従うことにして撤退を続けました。
トロイア軍、勢いづく
ギリシア軍の名高い大将たちが皆後退していき、トロイア軍は勢いづきます。
ヘクトール
・よーし、みんな勇敢に戦うぞ。ゼウス大神がトロイア軍に勝利を約束してくださったのだ!
・ギリシア軍は船の周りに塀なんか築いているが愚かだ。我々の馬はきっとそれを越えていけるし、船に近づいたら火を放ってやろう。
・(自分の馬に対して)今こそ今までの恩を返してくれ。妻アンドロマケーが一生懸命お前たちを世話してあげたんだからな。
・早速ネストールを追って行って武具を奪ってやりたい。そうしたら、今日中にでもギリシア軍をトロイアの地から追い返すこともできるかもしれない!
ヘクトールは勢いに乗って、兵士たちを駆り立てます。
上記では省略しましたが、ヘクトールは自分が駆っている全四頭の馬に一頭ずつ名前を呼んで励ましています。クサントス、ポダグロス、アイトーン、ランポスの四頭です。人間と変わらない名前のようですね。
妻のアンドロマケーがお世話をしていたとも言っていますし、馬に対する愛情を少し感じます。
ヘーラーの介入
ヘーラーとポセイドン
勢いづいたトロイア軍がギリシア軍を倒していくのをヘーラーは黙って見ていません。ヘーラーはギリシア軍を応援しています。
そこで居ても立っても居られなかったのか、ポセイドンに
ヘーラー
・ちょっとポセイドン。ギリシア軍がどんどん倒されていくのが可哀想じゃないの? あの人たちはお供え物もたくさんくれているのよ。
・ゼウスは介入を禁止しているけど、神々で協力して、ゼウスをイーダ山に引き留められたら、こっそり手を貸すこともできると思うわ。
早速ゼウスの言うことに刃向かおうとするヘーラーにポセイドンは困り切ります。
ゼウスの力は知っているし、そんなリスクは冒したくないが、ヘーラーもゼウスの妻であるからないがしろにはできません。それでもポセイドンは「ゼウスとやり合いたくない」と返事をします。
アガメムノーンの気を起こさせる
結局ポセイドンの助けは借りれなかったので、ヘーラーは一人でアガメムノーンのところへ向かいます。
その頃にはトロイア軍はすでにギリシア軍の船軍が停泊している場所へ迫っており、塀と堀にヘクトールを先頭に襲い掛かっていました。ギリシア軍が大ピンチの戦況です。
ヘーラーは大急ぎでアガメムノーンの胸の中に、「ギリシア軍を励ますように」気を奮い立たせました。
アガメムノーンは大きな声で劣勢となったギリシア軍兵士たちをしかりつけます。船に戻ろうとする大将たちによく聞こえるように、「逃げるのは恥だ」と非難します。
さらには、トロイア側に勝利を授けたゼウスに対し嘆きと祈りを捧げました。
「今まで神々の祭壇を見たら、必ず供犠を行ってきた。すべてはトロイア攻略のためです。どうかこんな仕方でギリシア軍が敗退することなどありませんように」
アガメムノーンは涙を流して祈りました。
ゼウスがギリシア軍を憐れむ
涙を流すアガメムノーンを見て、ゼウスは可哀想になってきます。そこで気が変わり、ゼウスはギリシア軍を鼓舞するために一匹の鷲を地上へ遣わしました。
ゼウスを表現するという鳥と言えば鷲です。ゼウスは度々鳥に姿を変えることもありますが、鷲に変身するのも多いです。神話画などでもゼウスが鷲で表現されることもしばしば。
鷲は鳥の中でも強く威厳があるため、空の王者です。それがゼウスにふさわしいのです。
ゼウスの使いである鷲は足に雌鹿の子供を掴んでいました。それをギリシア軍陣地のゼウスを祀る祭壇の脇へ、鷲がぽとりと落とします。
これを見てギリシア軍は、
「ああ、これは! ゼウス様が我々に味方してくださっているのだ!」
と喜びます。
船で今にも逃げ帰ろうとしていた兵士たちは、お墨付きを得られたとして自信満々になり、トロイア軍に立ち向かっていきます。
ギリシア軍、反撃
こうして戦況はまた一変、ギリシア軍が反撃に出ます。
とりわけディオメーデースは誰よりも前に出て、最前線で戦います。先ほどヘクトールに背を向けたことが心残りだったのでしょうか。彼以上に前に出るギリシア兵士はいません。そして彼はアゲラーオスというトロイア兵士を討ち取りました。
ディオメーデースだけではありません。アガメムノーンとメネラーオス、両アイアース、イードメネウスなど、ギリシア軍ではお馴染みの大将たちが一気に勢いを取り戻し、トロイア軍を倒していきました。
前半まとめ:ゼウスの天秤
今回読んでいった箇所は、ゼウスの天秤によってトロイア軍の勝利が決定され、トロイア軍が猛攻をするというところでした。
はじめ読んだ時、この天秤は戦争全体のことを指し示しているのか、当日の戦況について示しているのかわかりませんでしたが、ゼウスがギリシア軍を憐れんで激励していることからするに、「今日のところはトロイア軍が優勢になる」くらいの意味合いなのでしょう。
・ゼウスの命令で神々は戦争への直接的な介入を禁止された。
・ゼウスが天秤で測ったところ、今日はトロイア軍が優勢となる運命であった。
・とはいえギリシア軍もゼウスの激励を受けて奮闘している。
最終的にこの日の戦争がどのような形で終わるのかは第八巻の後半部を読んでいかないとわかりかねますね。ということでここまで読んでくださりありがとうございました。
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