閲覧ありがとうございます。すずきです。前回に引き続き、今回は『イーリアス』第十巻を読み進めていこうと思います。
前回までのあらすじ
アガメムノーンはギリシア軍のピンチを脱却するため、夜のうちにトロイア軍の陣中へ偵察部隊を送り込むことにした。ディオメーデースとオデュッセウスがその役目を果たすことになり、アテナ女神の加護を受けながら彼らは出発した。
トロイア側からの視察者
一方、トロイア軍も……
ギリシア側からトロイア側へディオメーデースとオデュッセウスが出かけていった同じころのこと。なんとトロイア軍総大将ヘクトールも同じことを考えていました。
あと少しでギリシア軍を討伐できるという夜。勇む自軍をそのままにはしておけず、こちらからギリシア軍の陣地へと偵察者を送ろうと会議を開いていたのです。
トロイア側の大将たちをかき集めて、名誉とギリシア軍の中で最も速い馬(=アキレウスの馴らす馬たち)を褒美に掲げ、偵察者を求めました。
名乗り出たドローン
みな黙りこくります。しかし、ここで名乗り出たのはドローンという男でした。
ドローンさんは初出なので、文中にも彼の説明が書いてあります。
・伝令使エウメーデースの息子
・金持ち、青銅持ち
・容姿は醜いが、足がすばしっこい
・一男五女の一人息子
特に武勇に優れているうんぬんの話は書かれていないですね。大丈夫でしょうか。
こうして自信ありげなドローンは、ヘクトールからの激励を受け一人でギリシア軍の陣地へ向かって行きました。
(その直後の文章で
「だがその船陣からまた戻ってきて、ヘクトールに報告することはできなかった。」
とハッキリ言及されているので、お察しください)
ディオメーデースたちとドローン
ドローン、さっそく捕まる
ドローンがこちらへ向かってくるのを最初に見つけたのはオデュッセウスでした。
オデュッセウスは初めは隠れてやり過ごし、隙をついてとっ捕まえることをディオメーデースに提案しました。
逃げられたにしても、ギリシア軍の船の方へ追い込み挟み撃ちになるようにしようという策も添えてです。
二人は道から逸れて、戦場に転がる屍の中でジッとしました。
ドローンは二人に気付く様子もなく、通り過ぎ、オデュッセウスたちが動く音がするとふと立ち止まりました。
「気の変わったヘクトールからの使いが自分を呼び戻しに来たのかな?」なんて思ったからです。
しかし、それらが敵の戦士だとわかると一目散に逃げだしました。オデュッセウスたちも一心不乱に後を追います。
オデュッセウスの策略通り、ドローンはギリシア軍がたくさんいる方へ逃げていきます。
もう船陣の方へ着くという時、アテナがディオメーデースに誉れを与えようと気を遣い、ディオメーデースを援助しました。
ディオメーデースがあえて軌道をずらして槍を投げつけました。鋭い槍が勢いよくドローンの肩をかすめとっていったので、彼は思わず立ち止まり、足が震え逃げるどころではありません。
ようやく追いついたディオメーデースとオデュッセウス。ドローンは真っ青な顔で身代金を払うからと命乞いをします。
オデュッセウスの尋問
「安心しろ、死ぬことなんか気にしないでよい」とことわってからオデュッセウスはドローンへ尋問を始めます。
オデュッセウスとドローン Q&A
Q1.なぜトロイア軍の陣地からギリシア軍の陣地へ、たった一人でやってきたんだ? 死体から武具を剥ぐためか、ヘクトールに命じられたのか?
A1.ヘクトールの命令でギリシア軍を偵察するためにやってきました。ヘクトールが私を褒美で惑わせたのです。
Q2.お前はどこでヘクトールと別れた? ヘクトールたちの武具や馬が置いてある拠点はどこだ? 奴らは今どんな行動をしようとしている?
A2.ヘクトールはイーロスの塚で馴染みの仲間と会議を開いています。陣営に護衛も見張りもつけていません。トロイア人たちは眠らないように頑張っていますが、(遠方から来た)救援軍は寝ています。
Q3.起きているトロイア勢と寝ている救援軍たちは入り混じってるのか?
A3.いいえ。海寄りにカーレス勢とパイオーネス勢、次にレレゲス勢、カウコーネス勢、ペラスゴイ勢がいます。東の町テュンブレーの方にはリュキア勢、ミューソイ勢、プリュギア勢、メーイオネス勢がいます。
本気でトロイアの陣中に入るのなら、一番端の方にトラキア勢がいます。王はレーソス。レーソスの馬と武具は死すべき人間が持つにはもったいないほど素晴らしいです。
ドローンさんは以上のように、オデュッセウスに聞かれるがままにすべて答えてしまいます。
そしてもうお気づきでしょうが、彼は、遠方から援軍にやってきた他の民族の軍隊を売っているんですよね。
特にトラキア勢を狙うのがいいと言わんばかりに、彼らの武具や馬を褒めて提示しています。
さてまるっきり吐いたドローンは、最後に「話すことは話したからこのまま生かしておいてください」と言います。
用済みは始末される
とはいっても、ディオメーデースの手に一度入った敵は生き延びることはできません。
まあオデュッセウスは「命の心配などはしなくていい」とは言いましたが、ディオメーデースはそうは言ってないですからね。
ドローンさんは乞うようにディオメーデースの顎の方へ手を差し伸べましたが、あっけなく剣で切り捨てられてしまいました。
首を切られ、頭部を繋ぎとめている腱を切り離されるまでドローンさんはなんかごにょごにょ言っていたようです。
さて、オデュッセウスはドローンから奪った武具をアテナに献上し祈ります。祈りの言葉が終わると、武具を置いて、帰り道にピックアップできるように葉っぱとか小枝で目印をしておきました。
トラキア勢の眠る場所へ
ディオメーデース、トラキア勢を殺しまくる
二人はなおも進んでいって、ドローンが言っていたトラキア勢のもとへ辿り着きます。
トラキア勢は武具を自分の横に、馬と一緒において疲労ですっかり眠っていました。トラキア勢の王レーソスは軍勢の真ん中に横たわっています。
それらを認めると、オデュッセウスに促されて、アテナにも勇気をもらって、ディオメーデースは眠るトラキア勢を血祭りにあげていきました。
ディオメーデースが殺したトラキア勢は12人。
一方その頃、オデュッセウスもボーっとしていたわけではなく、死体となった彼らの足を引きずって、馬が通る道を開けるようどかしておいていました。(ナイス気配り)
馬の奪取に成功
十三人目の犠牲者として、トラキアの王レーソスがディオメーデースに殺されると、オデュッセウスは彼の馬を引いて身を引きます。
オデュッセウスがおかしいなと思ってディオメーデースに目をやると、13人も殺したというのに、ディオメーデースはまだ暴れたりない様子でその場にとどまっていました。
まだ残るトラキア勢を殺して、もっと戦車をうばってやろうか、なんて大胆なことに思いを巡らしていたのです。
そこにアテナ女神がやってきて彼を制止します。
「帰りのことを考えなさい。もし何かあって逃げ帰るようでは不名誉だ。それに他の神が他のトロイア軍にこのことを伝えて呼び起こすかもしれないよ」
ディオメーデースは武勇には長けているけれど、少し熱しやすい性格のようです。だからこそ、頭のキレるオデュッセウスとのペアはバランスが取れている気がしますね。
アテナの言葉を従順に受け止め、ディオメーデースはオデュッセウスが馴らす馬に乗ってギリシア軍の陣営へと戻っていきました。
偵察部隊、帰還
アポローンが惨事を知らせる
アテナの言う通り、トロイア軍もこの事態に朝まで気付かなかった……なんてことにはなりませんでした。
トロイア側に味方しているアポローン神がディオメーデースたちとアテナを見ていて腹を立て、トラキア勢の指揮者の一人であったヒッポオコーンを眠りから覚まさせたからです。彼はレーソスに従兄弟にあたる戦士です。
ヒッポコオーンが見てみると、そこは無残な有様でした。馬はおらず、あるのは死体だけ。彼はあまりの光景にわあっと喚き、仲間たちの名前を呼び続けました。
トロイア軍たちもその騒ぎに気付き駆けつけると、この所業に驚くしかありませんでした。
帰還を喜ぶギリシア軍
オデュッセウスたちは忘れずにドローンの武具を拾ったのち、ギリシア軍の陣営に帰還しました。
トロイア軍たちが大騒ぎしている様子がここからも見えたのでネストールは不安でしたが、彼がいち早く二人の帰還に気付きました。
二人の帰還に喜び、祝いの言葉を惜しまないギリシア軍たち。彼らが立派な馬を携えて無事帰還した経緯をオデュッセウスに説明させます。
オデュッセウスはディオメーデースの武勇も立てて説明し、一緒にこの偵察作戦が上手くいったことを祝いました。
馬はディオメーデースの陣屋に繋がれました。
その後、いとも誉れ高いディオメーデースとオデュッセウスは、海で身を清めて、お風呂にも入ってさっぱりし、身体に油を塗ってスキンケアをしました。もちろん、アテナへの捧げものも忘れません。
こうして波乱な夜が終わったのでした。
まとめ:偵察作戦、大成功!
アキレウスに拒絶され、どうしようもなかったギリシア軍でしたが、残っている者でなんとか気運をこちら側に向けることに成功したようです。
絶体絶命でも一致団結して工夫を凝らして頑張るギリシア軍と、なんだか民族ごとに分かれ、チーム感がないトロイア軍の対比もここで感じられます。
・トロイア側からもドローンが視察に来ようとしたが、見つかり、情報を吐いたのち殺された。
・ディオメーデースとオデュッセウスは、トラキア勢を殺しまくり、馬を奪った。
・偵察作戦は大成功に終わった。
作戦は大成功でした。しかし、のんびり休んでもいられません。すぐに朝が来て戦いが再開しますから。
ということで十一巻に続きます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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