こんにちは。今回から『イーリアス』第九巻を読んでいきます。
久々に主人公アキレウスが登場します!
前回までのあらすじ
ゼウスの加護を受けたトロイア軍は、ギリシア軍を船の泊っている拠点まで追い詰めた。あと一歩のところで夜になり戦いは中断された。トロイア軍はギリシア軍を包囲し夜を過ごすことにした。ギリシア軍は絶体絶命の状況にすっかり恐怖しきっている。
ギリシア軍指揮官たちの会議
アガメムノーンさえ弱気に
トロイア軍に追い詰められた日の夜。
ギリシア軍総大将アガメムノーンは、すっかり嘆きで心をいっぱいにしました。そうしてギリシア軍の中の大将たちを名指しで指名し、一般兵士には知られぬようにひっそりと会議を開きました。
アガメムノーンは、涙しながら
「ゼウス様はトロイア側に味方した。もうギリシアに帰ろう」
と言い出すのです。
それを聞いて皆に沈黙が訪れます。ギリシア軍の指揮を執っているのはアガメムノーンですから、彼の言葉は非常に重みのあるものです。そんな彼がこれほどに弱気になっています。
しばらくひっそりとしていた会議でしたが、それを打ち破る声があがりました。
「なんて思慮のないことをおっしゃるんだ」
声の持ち主は、あのディオメーデースです。
「あなたは本当にギリシア戦士たちが弱く、武勇がないと思っているのか。あなたが帰るならそれでいい。それでもギリシア軍は残って戦い続ける。いや、彼らさえ帰ったとしても俺と従者ステネロスの二人はトロイアを攻め落とすまで戦い続けてみせる」
ここでもまたディオメーデースのかっこいいセリフが炸裂! ぎりぎりまで追い詰められた状況でも、ディオメーデースの勇敢さと、戦士としての誇りがうかがえます。
(結構真剣に、ディオメーデースが『イーリアス』人気キャラ投票1位だと思ってます。まだ九巻までしか読んでないけど)
その場にいた大将たちは、ディオメーデースの宣言に大きな喝采で称賛を送りました。
ネストールが取りまとめる
さて、会議の場を取りまとめるのが長老ネストールです。年配の立場から折衷案などを提案してくれます。
ネストールは
- 若い戦士たちは夜の見張りを徹底する
- アガメムノーン中心に、長老たちを集めて、ごちそうを食べながら会議を行う
の二点を提案します。そうして大将たちの会議は解散され、言われたとおり動き出しました。
アキレウス説得使節団を派遣
長老たちの会議
アガメムノーンは長老たちを集めて、ごちそうを美味しく食べた後、さらなる会議を開きます。
話し出したのは長老ネストールでした。総大将に提案する形で自分の策を伝えます。
ネストール
・アガメムノーンがあの時(第一巻参照)、アキレウスから褒美を奪い、彼を辱めたのが誤りだった。
・アキレウスを戦場に呼び戻すために、みんなで話し合おう。
『イーリアス』の主人公は英雄アキレウスですが、彼は第一巻で登場したきり、今まで全く出てきていませんでした。
それは上記のネストールのセリフにもある通り、ギリシア軍総大将アガメムノーンとの喧嘩が原因です。(第一巻前半はこちら)
ネストールは、現在のギリシア軍のピンチを打破できるのはアキレウスしかいないと考え、彼のもとに行って呼び戻すことを提案したのです。
アガメムノーン
・たしかに、今のヘクトールに対抗できるのはアキレウスだけだ。
・過ちを犯してしまったからには、代償はたくさん払う。(後述)
・だからアキレウスも折れて、条件を飲み込むがいい。私の方が年上だし。
アガメムノーンがアキレウスへの代償を長々と述べ挙げると、ネストールも賛同しました。
アガメムノーンが提案した償いの品は以下の通り。
- まだ火にかけたことのない鼎(三本脚の鉄製のお鍋)×7
- 黄金の錘(現代の金の延べ棒にあたるようなもの)×10
- お釜×20
- 競争で優勝したことのあるガッシリとした駿馬×12
- 手仕事の技巧に長けた女性たち×7
(以前奪ったブリセイスを含む)
(アガメムノーンはブリセイスと語らったことも、ましてや寝たことなどないと強調)
以上のものに加えて、トロイア攻略の際の褒美の約束もします。それが以下の通り。
- 船を満たすほどの青銅や黄金の奪取品
- トロイアの女×20
(アキレウス自身が選べる) - ギリシア帰国後、オレステース(アガメムノーンの息子でミュケーナイの王子)と同じほどの誉れ&アガメムノーンの婿の地位
- アガメムノーンの三人の娘の中の一人を嫁として迎え入れられる。(しかも結納費タダ)
- 嫁入りの引出物として、7つの城町
(そこの人民はアキレウスを神として崇め、貢ぎ物を捧げてくれるだろう)
さて、これらの品々や権利を提示して、
「アキレウスさん、あの時はすみませんでした。これ全部あげるんで、どうか戦場に戻ってきてください!」
と呼び戻すことになったのです。
使節団、アキレウスの陣屋へ
使節団として選ばれたのは、ポイニークス、オデュッセウス、大アイアースの3人でした。
ポイニークスは初出ですが、実はアキレウスとは深い関係のある人物です。
トロイア戦争に参加する際に、まだ若かったアキレウスが心配だからと、アキレウスの父ペーレウスが彼に付き添わせた長老がポイニークスです。
また大アイアースはアキレウスに次ぐギリシア軍№2の勇士で、アキレウスの従兄弟。そしてオデュッセウスはずば抜けて知恵に富んだ男で、ギリシア軍のブレーンです。
さすがネストールが選んだだけあって、万全の布陣です。
使節団はネストールの指示を受けてから出かけていきました。ネストールは特にオデュッセウスに頼みをかけており、彼に対して念を入れて声をかけました。
海岸沿いを歩いて行ってしばらく、アキレウスとその部下たちのいる陣屋につきました。
アキレウスは琴を奏でて武士たちの誉れをの歌を歌っている最中でした。琴の音で自分の心を慰めているのです。向かいには友達のパトロクロスが一人、座って聴いています。
二人はオデュッセウスたちの姿を認めると、すぐに立ち上がり、おもてなしの準備を始めました。
アキレウスは意外にも彼らに対し好意的です。彼は久しぶりに友達に会えたことを素直に喜んでいる様子です。
オデュッセウスの説得
アキレウスたちが用意したごちそうを楽しんだのち、ひと段落したところでアイアースの合図により、使節団は本題に入ることにします。
アキレウスの真向かいに座っていたオデュッセウスが代表して、戦場に戻るよう願い、アガメムノーンの差し出した条件を伝えます。
オデュッセウス
・美味しいご飯をここでも食べられるなんて、嬉しい。
・でも今はご飯のことよりも、ギリシア軍のピンチの方が気がかりなんだ。
・実はトロイア軍の猛攻を受けている。彼らは陣屋のすぐそばで火を焚き、今にも襲い掛かってきそうだ。
・特にヘクトールは凄まじい。彼は朝が来るのを待ち望み、すぐさま船を燃やし、右往左往するギリシア軍をなぎ倒そうとするだろう。
・だからアキレウスよ、立ち上がってくれ! 皆が死んでからでは後悔するだろう。ギリシア軍を守ってくれ。
・アキレウスの父ペーレウスだって遠征出発の日に、「高ぶる心を抑えて、人との和を考えなさい」と言っていたじゃないか。
・胸にある怒りを捨てなさい。アガメムノーンはこんな償いを掲示しているのだ。鼎7つと……(略)
・さあアキレウスよ、苦しむギリシア軍を憐れんで戻ってきてくれ。あなたとしても、あのヘクトールを今こそ倒すチャンスなのだ。
オデュッセウスもネストールに負けず劣らずの弁舌家です。説得力のある言葉を簡潔に述べてくれる印象があります。
アキレウスの返答は……?
オデュッセウスの必死の頼みを受け、アキレウスはどのような反応をしたのでしょうか。
アキレウス
・きっぱり言おう。もう代わる代わる私を誘いに来るのはやめてくれ。
・アガメムノーンは私にとっていやらしい奴なのだ。
・彼が私を説得することはできない。他の人でも一緒だ。
・私は今まで命を投げうって必死に戦ってきた。分捕ってきた品々は全部アガメムノーンに差し出した。
・なのに彼自身はずっと後方にいてろくに戦いもせず、そのくせお宝はほとんど自分の物にする。
・しかも、私に対しては一度分配した女を奪ったのだ。もうアガメムノーンには騙されないぞ。
・だからオデュッセウス、私抜きで策でも講じてくれ。前に堀と塀を築いた時のように。
・まあ堀と塀を築いてもヘクトールの勢いを止められていないみたいだけど。
・私が戦線に立っていたころはヘクトールも自分の市を守るのに必死で、トロイアの城門から離れたことなんてなかったのにな。
・だけど私はもうヘクトールと戦うつもりもないし、明日にでも船で故郷プティエに帰ることにしよう。
・戦利品もいっぱい持ち帰ることにする。でも、私の手柄の褒美はアガメムノーンが無礼にも奪っていってしまったがな。
・だからもうアガメムノーンに公言してくれ。「あなたがどんなに恥知らずな犬のような男でも直接私に会いにはこれないだろうし、来ても絶対に提案には乗らないし、協力もしない」
・アガメムノーンは私を騙してひどい目に遭わせたのだから。
・どんなに品を積まれても受け取らない。アガメムノーンの娘だなんて、どんなに優れていても全くいらない。
・どんな代物でも、どんな権利や条件でも、武士の命より大切なものはないからである。
・母テティスが言うには、私は2つの運命の可能性を持っている。
一つは戦場で名誉を得て若くして死ぬ道、もう一つは名誉なしに故郷で穏やかに長生きする道である。
・だからあなた方ギリシア軍も、どうせゼウスがトロイアに味方しているんなら勝てないんだから早く故郷に帰った方が良い。
・さあ私のこの返事を皆に伝えてくれ。あとポイニークスはここに留まって、明日一緒にプティエーに帰るのもよかろう。
アキレウスの怒りに満ちたお断りのセリフが数ページに渡って述べられています。
ここでアキレウスの運命について言及されているのもチェックです。アキレウスは現時点では名誉を諦め故郷に帰る選択をほのめかしています。
さて、例の一件についてアガメムノーンは過ちとしてもう反省していますが、一方でアキレウスはまだ怒りを燃やし続けています。
オデュッセウスの話術も怒れる英雄の前では無力……、次に口を開いたのはアキレウスに付き添ってきたポイニークスです、が、それは後半で。
前半まとめ:強情なアキレウス
久しぶりに登場したアキレウスにワクワクして読み進めましたが、なんかまだ怒ってるし、少し嫌味っぽい感じもあって少し笑ってしまいました。
(オデュッセウスたちからしたら笑い事じゃありませんが。アガメムノーンとアキレウスに挟まれて、彼らが一番大変な立場ですね)
そしてもう一つ重要なのが、パトロクロスという青年です。アキレウスの演奏を間近で聞いたり、そばでおもてなしの準備を共にしたりと親密な関係です。彼がのちのちキーパーソンになるとか。
・アガメムノーンはアキレウスを呼び戻すためオデュッセウスたち使節団を派遣した。
・アキレウスはパトロクロスたちとともに、自陣で過ごしていた。
・アキレウスは使節団の訴えと願いを強く退けた。
第九巻後半はアキレウス説得作戦の続き、ポイニークスが説得に挑戦します。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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