こんにちは、すずきです。前回に引き続き、『イーリアス』第八巻を読んでいこうと思います。
前回までのあらすじ
ゼウスの天秤がトロイア軍の優勢に傾いた。そのためトロイア軍はギリシア軍を彼らの拠点まで追い詰めている。神からの励ましを受けながらギリシア軍も奮戦、反撃している。
アイアースの弟テウクロス
テウクロスの活躍
反撃に出たギリシア軍の中にテウクロスという男がいました。彼は大アイアースの異母兄弟で、庶子でしたが、彼も立派な勇士であり、とりわけ弓の扱いに長けていました。
彼の父はアイアースと同じくテラモーンで、母はトロイアの王女であったヘーシオネーです。ヘーシオネーはトロイア王プリアモスと兄弟関係でありましたが、以前ギリシアの英雄ヘラクレスがトロイアを攻略した際に捕虜にされ、サラミス島の国王であったテラモーンに与えられていました。
テウクロスは血縁的にはギリシアとトロイアを両方継いでいます。しかし、ギリシア生まれギリシア育ちですので、この戦争では兄とともにギリシア側での参戦です。
さて弓が得意な彼は異母兄である大アイアースと見事なコンビネーションプレイを見せます。
二人は並んで立ち、アイアースが巨大な楯でテウクロスを守りながら、テウクロスが弓を射るその瞬間だけ、その楯を横にスライドして射線を通すのです。そしてまた矢をセットしている間は楯で覆ってあげます。
そうしてテウクロスの矢はトロイア戦士たち八人、オルシロコス、オルメノス、オペレステース、ダイトール、クロミオス、リュコポンテース、アモパーオン、メラニッポスを次々と倒していきました。
彼の活躍にアガメムノーンも喜び、
「すごいぞ! もしトロイア攻略ができたら自分の次にお前に褒章を与えよう」
と褒めちぎります。
「そんなのを貰わなくても私は頑張るのに。また励ましてくれるのですね」と笑顔で応えました。
テウクロスVSヘクトール
しかしテウクロスには、トロイア側の総大将ヘクトールを射られていないのが気がかりでした。
ヘクトールを討ち取りたいのに、彼を目がけて射た矢は別の人物に当たるのみでヘクトールを倒せません。
彼の矢はゴリュギュティオーンというプリアモスの兄弟である戦士を討ち取りました。
もう一度射ると、今度はヘクトールに命中しそうな軌道でしたが、アポローンが軌道を反らし、矢先はヘクトールのそばにいた従者のアルケプトレモスに当たりました。
ヘクトールは従者が殺され、嘆きと怒りに満たされます。そうして戦車から飛び降り、近くの大岩を担ぐとテウクロス目がけて雄たけびをあげながら向かってきました。
想像しただけでも震え上がりそうですが、テウクロスの方もヘクトールを討ち取るチャンスと捉え、すぐさま弓を引き絞ります。
しかしヘクトールが一気に距離を詰め、ギザギザした岩で弓弦ごとテウクロスを打ちました。あまりの衝撃に弓は手から離れ、体中がしびれます。かろうじて倒れ伏すのはこらえましたが、もう戦えるほどではありません。
アイアースがすぐに楯で隠し、その間に後ろから仲間の二人が呻くテウクロスを自陣へ連れ帰りました。
テウクロスの活躍で反撃に出ていたギリシア軍でしたが、再びゼウスがトロイア側の勝利を示すように雷を轟かせたので、戦況は一変し、再びトロイア軍が一気に優勢になります。ヘクトールを先頭に猛攻してきます。
ギリシア軍は船の傍らの塀と堀でなんとか互いを励まし合いながらギリギリ持ちこたえていました。
ヘーラーとアテナが介入?
ヘーラーとアテナがギリシア軍を憐れむ
それを見て居ても立っても居られないのがヘーラーとアテナです。
二人は、ギリシア軍が倒されていくのを憐れむと同時に、神々による戦争への介入を禁じたゼウスに不満をあらわにします。
アテナ
・ゼウスが自分をないがしろにしている。
・私はゼウスの息子である英雄ヘラクレスを以前、手助けしたことがあるというのに。
・ゼウスはテティスの願いを優先して、アキレウスの名誉のためにトロイア勢にギリシア軍を追い詰めさせているのだわ(第一巻参照)
・それでもまたゼウスが私を尊重してくれる時が来るはず。
・ヘーラーさまは地上へ行くために馬車を用意してください。私はいったん宮に戻り武装してきますから。
アテナの指示にヘーラーも承知し、二人は馬車と武具の用意をすると、地上へ降りていきました。
ゼウスが咎める
オリュンポスの宮を留守にしイーダ山にいるとはいえ、ゼウスがそれを見逃すはずがありません。
馬車に乗りギリシア軍を助けに行こうとする二人の女神を捉えると、彼は虹の神イリスを使わして、二人を留めようとします。
イリスは駿足で両女神の馬車に追いつくと、ゼウスにバレていることと、「このまま引き返さないとゼウスの雷が女神たちを打ち、十年たっても癒えない傷を作るだろう」という脅しを伝令し帰っていきました。
ゼウスのセリフもイリスのセリフも、アテナに関しては少し優しい言い方で咎めるのですが、ヘーラーに関してはもはやゼウスに刃向かうことが日常茶飯事で呆れているのか厳しい言葉で非難しています。
さてこのような脅しを受けたので、両女神はしぶしぶオリュンポスへと引き返します。
そもそも人間ごときのために神である二人がそのようなリスクを冒すことなどおかしな話です。そうとはいえ二人の胸には悲しい思いがありました。
ゼウスとヘーラーの言い合い
アテナとヘーラーがオリュンポスに帰ってからしばらく後、ゼウスもイーダ山からオリュンポスへ戻ってきました。そして王座に座ります。
見れば、不自然に離れたところにアテナとヘーラーが座っていました。ゼウスの帰還を無視して、なんだかムスッとしています。
ゼウスは二人に対し再び、戦争への介入の禁止と自分の力の強さを説明し、二人を直接咎めました。
アテナとヘーラーはそう言われても不満気にぶつくさ言い合い、くっついて座っていました。(人間味があってかわいらしい描写です)
トロイアを酷い目に遭わせることをまだ諦めていない様子です。
こういう時、アテナは不満気ながらも黙っていられるのですが、ヘーラーは怒りに任せてゼウスに反論してしまいます。
ヘーラー
・あなたの強さはわかってますわよ。だから戦いからは手を引きます。
・でもやっぱり倒されていくギリシア軍が哀れだからアドバイスに行くくらいはいいじゃない。あなたに憎まれたためにギリシア軍がみんな倒されてしまわないように。
ゼウス
・お望みとなら見せてやろう、私がギリシア軍を滅ぼすところをな。
・あのヘクトールは、アキレウスが戦線に復帰するまでに倒されることはありえない。これが私の託宣だ。
・あなた(ヘーラー)のことなど私は全く気にかけてない。あなたが冥界の底に落とされてもどうでもいい。あなたほど厚顔無恥なものはいないから。
正妻への言葉とは思えないゼウスの罵りが炸裂。ヘーラーは何も言わずに座っていました。
トロイア軍の会議
戦闘は明日へ持ち越し
そんなことがあったうちに、夜になっていました。戦況がどうでも、夜になれば戦いは中断です。
あとちょっとのところまで追い詰めていましたが、トロイア軍は攻撃を止めギリシア軍の陣営から離れます。ギリシア軍は大変ホッとしたことでしょう。
とはいえここまで追い詰めたので、トロイア軍は今夜は市内には帰らず、ギリシア軍の陣営の近くで夜営をします。
そこでヘクトールを代表に夜の過ごし方と明日への意気込みを伝える会議が開かれました。
夜間の見張りと明日への意気込み
あと少しのところで中断された戦争。ヘクトール的には「今日ギリシア軍を追い返せるのでは?」という期待もありましたが、それは明日以降のこととなりました。
今日のところは戦車の馬を解放し給餌などのケアをしたり、人間たちもここで神々への儀式と晩餐を開いたりします。
夜営のため周りには城壁などはありません。そのため、夜の間は戦士たちは火を焚いてギリシア軍を見張る必要もあります。夜間の急襲や、逆にギリシア軍がひっそりと故国に逃げ帰らないように。
一方、トロイア市内の方も見張りが必要です。普段はトロイア軍が夜になると戻っていましたが、今夜はそれはありません。
ヘクトールは伝令使たちに、トロイア市民たちもギリシア軍が急襲してこないか交代制で城門から見張るように告げました。
ヘクトールは明日への意気込みの中で、とりわけディオメーデースを敵視していました。明日には彼と決着をつけると奮起しています。
「明日には、トロイア戦争を終わらせるぞ! 我々の勝利をもって!」という勢いで戦士たちを鼓舞すると、トロイア軍は雄たけびをあげました。
そして儀式と晩餐、明日への準備に取り掛かります。そこで朝が来るのを待っているのでした。
まとめ:ギリシア軍、撤退寸前
第八巻ではトロイア軍の猛攻と追い詰められたギリシア軍が描かれています。大ピンチに陥ったギリシア軍ですが、まだ持ちこたえていますね。第八巻は「明日、勝敗が決まる!?」という場面で終わっているので、読者の興味をそそりますね。週刊連載の漫画さながらです。
・ちょくちょくギリシア軍は反撃するも、トロイア軍に追い詰められている。
・ヘーラーとアテナは戦争への介入のチャンスを伺っている。
・ギリシア軍は撤退寸前。そこで夜になり、戦いは明日へ持ち越し。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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